2013年7月22日月曜日

はやしの口開け

千倉町は南へ行くほど砂地の海岸は少なく、房総半島南端の白浜町あたりまでずっと岩場が広がっている。

この岩場がアワビ、サザエ、伊勢エビの格好の漁場となっており、古くは江戸時代から素潜り漁が盛んに続いてきた。いやもっと古くから行われていたに違いない。この地では、漁師といっても船で魚を獲る漁をする人と、素潜りでアワビ、サザエ、ウニ等の漁をする海士(アマ)と呼ばれる人がいる。アワビは浜値も高価にやりとりされるため、海士の仕事は大きな収入源となる。我が区ではその計画的な水揚げのために、アワビの稚貝を養殖、放流して安定した漁場を作っている。





その中で、普段からアワビを保護するため漁が禁止されている場所があり、そこを皆「はやし」と呼ぶ。この「はやし」を年に一度だけ漁協の組合員に解放する日がある。これが「はやしの口開け」である。気候の安定する梅雨明け時分、大潮の日をメドに行われる。今日がその日となった。区の組合員全てが専業の漁師と限らず普段は普通に仕事をしている訳だが、みなこの口開けの日に休みをとってまで参加する一大行事である。1〜2週間前からおよそのスケジュールが告げられるようで、海士さんたちはその頃からソワソワしはじめる。というのも、解放される時間は午前中3時間程だが、プロではない海士でも数十キロの水揚げをするアワビ獲りの名人もいて、海況次第では時期が大きくずれたり中止になる年さえあるからだ。端から見ていても、皆にとっていかにこの日が大事なのかがわかる。


引っ越してきてから、もう何度かこの口開けの日の浜の様子を見て来た。都会での仕事を定年退職した人達がこの地へ戻って来て海士になる人も多く、海士の年齢層も高い。しかし子供の頃から海に親しんで来た人達にすれば、勝手知ったる我が磯というところだろう。そういう海士さん達も年々と腕を上げ水揚げも増えてくる様子がうかがえる。写真は海女にデビューしてまだ2年目の女性で、昨年の口開けの日はまだ数枚のアワビを獲るのがやっとというところだったが、今年はぐっと水揚げも増えその嬉しそうな明るい表情で、海士さん達の雰囲気を和やかにしている。

そう、この素潜り漁は船に乗って海上から潜る人もいれば、磯伝いに歩いて海へ入り潜る人もいるのだが、終了時間間際に続々と大きな魚籠一杯にアワビを入れて磯へ上がってくる様子をみていたら、ちょっと自分も挑戦したくなった。素潜り漁はシュノーケリングとは違い、シュノーケル、足ひれ、そしてウェットスーツの着用は許されない。なので一回海底へたどり着くのにかなりの体力を使い、低水温に体温を奪われ、南の島でシュノーケリングする様に悠長に海に浮かんでいられないのである。カツカネイと呼ばれるアワビを岩から剥がすための重いバールの様な道具を持って、水中メガネと桶樽ひとつを頼りに海に潜ってアワビを獲る。泳げなくてもシュノーケリングやダイビングはできるが、素潜りはそうはいかない。組合員になったとしても、ん〜、やっぱり重労働だぁ。

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